法律・規制関連

外務省が発出する『感染症危険情報』の影響について解説

外務省が発出する『感染症危険情報』の影響について解説
編集長ハナ
編集長ハナ
Webメディア『Naritime』の編集長ハナです。

令和2年3月18日、外務省は全世界に対して全世界に対して感染症危険情報(レベル1)を発出しました。

世界的に拡大している新型コロナウイルス感染症を懸念したもので、日本政府が講じる防疫措置の一環です。

感染症危険情報の影響は、私たちの行動に具体的にどのような制限をもたらすのでしょうか?

今回は、外務省が発出する『感染症危険情報』の影響について解説します。

『感染症危険情報』が海外旅行に与える影響

感染症危険情報とは、新型インフルエンザ等危険度の高い感染症に関して、渡航・滞在にあたり特に注意が必要と考えられる国・地域について発出される海外安全情報です。

感染症危険情報は、4段階に分かれていて数字が大きくなるほどに危険度が高くなります。

ただし、今回発出されたような「レベル1」が最も軽微な警告段階というわけでは無いことには注意が必要です。感染症危険情報を発出する前段階として、さまざまな注意喚起が行われているのです。

海外での感染症の発生が、私たちの行動にどのように影響を与えて行くのか?大きく3ステップに分けて解説します。

【Step①】「感染症広域情報」・「感染症スポット情報」で注意喚起

外務省は、海外において感染症が発生した初期の段階で、基本的にまず「感染症広域情報」および「感染症スポット情報」によって一般的な注意喚起を行います。

掲載した画像は、アメリカでのインフルエンザの流行について注意を喚起する「感染症スポット情報」の事例です。

「感染症広域情報」および「感染症スポット情報」は、渡航・滞在時の安全対策やトラブル回避の観点から、日本国民が知っておく必要があると思われる事案について発出されるものですが、あくまで注意喚起となり具体的な移動の制限などは課されません。

「感染症広域情報」や「感染症スポット情報」でまずは注意喚起を行い、さらに事態が進行・悪化した場合に、「感染症危険情報」を発出するという流れです。

【Step②】「感染症危険情報」を4段階に分けて発出

危険度 国民への勧告 発出の目安
レベル1 十分注意 特定の感染症に対し,国際保健規則(IHR)第49条によりWHOの緊急委員会が開催され,同委員会の結果から,渡航に危険が伴うと認められる場合等。
レベル2 不要不急の渡航停止 特定の感染症に対し,IHR第49条によりWHOの緊急委員会が開催され,同委員会の結果から,同第12条により「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」としてWHO事務局長が認定する場合等。
レベル3 渡航中止勧告 特定の感染症に対し,IHR第49条に規定する緊急委員会において,第12条に規定する「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」が発出され,同第18条による勧告等においてWHOが感染拡大防止のために防疫・渡航制限を認める場合等。
レベル4 退避勧告 特定の感染症に対し,上記のレベル3に定めるWHOが感染拡大防止のために防疫・渡航制限を認める場合であって,現地の医療体制の脆弱性が明白である場合等。

(外務省海外安全ホームページを参照しNaritime編集部作成)

「感染症広域情報」や「感染症スポット情報」でまずは注意喚起を行いつつも事態が収束せず、さらに進行・悪化している場合には、「感染症危険情報」が発出されます。

「感染症危険情報」は、上記の表の通り、4段階に分かれていて、数が大きくなるほどに危険度も高くなっていきます。

予備知識として理解しておいた方が良いかと思いますので記載しますが、外務省が発出する「感染症危険情報」は、あくまでも助言・勧告であって、それが直ちに日本国民に対して、法的根拠を持って渡航の制限を課すものではありません。

海外渡航は、日本国憲法第22条に明記されており、基本的人権の一つと解されています。

一般的に、民主主義国では、基本的人権に属する事項を制限することは、非常にハードルが高いのです。基本的人権を制限することを許容する特別な立法措置が講じられない限りは、原則的には不可能です。

【Step③】「感染症危険情報」に応じた旅行業界のガイドライン

危険度 社団法人日本旅行業協会(JATA)のガイドライン
レベル1 旅行会社が、独自に情報を収集し、必要に応じて危険回避の措置をとるなどして、安全確保ができると判断した場合は、旅行者に渡航情報の内容を書面で案内した上で、企画旅行を実施可能。旅行者が契約を解除する場合には、旅行会社は規定通りの取消料を請求できる。
レベル2
レベル3 原則として旅行中止。
レベル4

(社団法人日本旅行業協会(JATA)ガイドラインよりNaritime編集部作成)

法的根拠を持って渡航制限を課すことは難しいため、実質的には、外務省の勧告を受けて、海外渡航に関わる事業者が自主規制を行うことによって、海外渡航の制限が行われます。

海外に渡航する手段を絞ることで、事実上、海外渡航が抑制されるということですね。

一例をあげると、社団法人日本旅行業協会(JATA)では、上記のようなガイドラインを加盟各社に通知しています。

旅行会社の対応は、「感染症危険情報」レベル1では旅行実施とするところが多いように感じられます。レベル2の段階で旅行中止の判断とする旅行会社も現れてきて、レベル3以上になると全面的に中止判断となる傾向のようです。

なお、旅行会社がツアー取り扱いを停止した段階でも、ビザ取得などの諸条件を満たせば、個人で全てを手配して渡航することは可能です。

海外旅行を検討・既に手配している場合の対応について

ここまでお伝えしてきたことを基に、海外旅行を検討していたり、既に海外旅行を手配している場合の対応について記載しておきます。

既に解説した通り、外務省・国は、法的強制力を持って渡航制限を行うことはありません。制限したくても、その方法が無いのです。

原則的に自分自身で判断する必要があります。

【ケース①】海外旅行を計画段階の人

全世界に対して全世界に対して感染症危険情報(レベル1)が発出されたと言っても、海外へ向かう航空機の搭乗券を購入すること自体は可能です。

とはいえ、不要不急の海外渡航は控える、というのが基本的な姿勢になるとは思います。

今後しばらくの間、海外への渡航は、個人の観光旅行は大きく減少して、止むを得ないビジネス利用が中心になって行くのではないでしょうか。

【ケース②】既に海外旅行を手配している人(旅行会社経由)

既に海外旅行を手配している人で、旅行会社経由でツアー等を手配している人は、まずは自分が利用している旅行会社に状況を問い合わせるべきかと思います。

旅行会社を利用するメリットの一つとして、万一の緊急事態への説明対応も、当然期待されて然るべきことと思いますので、納得できるまで問い合わせてみると良いように思います。

【ケース③】既に海外旅行を手配している人(個人手配)

既に海外旅行を手配している人で、旅行会社を使わずに全て個人で手配している人については、基本的に自己判断となります。

自分に代わってリスク等を負ってくれる旅行会社等が存在しないわけですから、自分自身で判断し行動する以外の選択肢はありません。

【将来的な可能性】「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」が発せられる事態となった場合

令和2年3月10日に閣議決定(3月13日公布、同14日施行)された『新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律案』により、必要が生じた場合、政府は「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」を発することができ、必要最小限度で、日本国民の基本的人権を制限する場合があると解されています。

「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」が発せられる事態となった場合には、国は、法的強制力を持って国民の移動を制限する可能性があります。

現時点ではまだ将来的な可能性の一つという認識で良いと思いますが、「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」が発せられる事態となった場合には、改めて海外渡航への影響をレポートしたいと思います。

【参考】令和2年3月18日外務省発表原文(抜粋)

感染症危険情報(レベル1):全世界に対する感染症危険情報の発出(新規)

2020年3月18日

【危険度】

●全世界(本件とは別途感染症危険情報を発出している国・地域を除く。)

レベル1:十分注意してください。(新規)

感染がさらに拡大する可能性があるので,最新情報を入手し,感染予防に努めてください。

1 世界保健機関(WHO)によると,3月18日現在,新型コロナウイルス感染症の感染国は150か国以上,感染者は累計で約18万人近くに上っており,感染は世界的に急速な広がりを見せています。3月11日,WHOは,新型コロナウイルス感染症がパンデミックと形容されると評価しています。

2 このような状況の中,各国では出入国規制や検疫措置の更なる強化の可能性もあります。例えば,国境閉鎖や外出禁止措置がとられることにより,邦人旅行者等が行動の制約を受けるといった事例が発生しています。また,航空便の突然の減便又は運行停止がとられることにより,影響を受ける事例も発生しています。

3 また,最近,エジプトやフランス等を始めとして,日本からの海外旅行者が旅行中に感染し,帰国後に感染が発覚する事例が増加しています。

4 さらに,本18日,新型コロナウイルス感染症対策本部において,検疫の強化や査証の制限等の水際対策強化に係る新たな措置が発表されました。諸外国での感染が拡大する中で,日本政府としては,今後とも必要な場合には,更に追加的な措置を講じてまいります。

5 このような状況も含め,様々な状況を総合的に勘案し,全世界(本件とは別途感染症危険情報を発出している国・地域を除く。)に対して感染症危険情報レベル1(十分注意してください) を発出します。上記の状況を踏まえ,国民の皆様におかれては,海外への渡航の是非又はその延期の必要性について改めて御検討ください。

6 外務省としては,各国における入国制限措置等について情報収集し,海外安全ホームページに掲載していますが,在留邦人及び渡航者の皆様におかれては,感染の地理的拡大の可能性に注意し,現地の状況が悪化する可能性も念頭に,各国の出入国規制や検疫措置の強化に関する最新情報を確認するとともに,感染予防に万全を期してください。

(出典:外務省2020年3月18日『感染症危険情報(レベル1):全世界に対する感染症危険情報の発出(新規)』より)

外務省が発出する『感染症危険情報』の影響について解説【まとめ】

外務省が発出する『感染症危険情報』の影響について解説しました。

今回紹介したこと
  • 令和2年3月18日、外務省は全世界に対して全世界に対して「感染症危険情報」(レベル1)を発出しました。
  • 感染症危険情報に先立ち、まず「感染症広域情報」および「感染症スポット情報」によって一般的な注意喚起を行います。
  • 事態が収束せず、さらに進行・悪化している場合には、「感染症危険情報」が発出されます。
  • 「感染症危険情報」は4段階に分かれますが、外務省の助言・勧告であり、法的根拠を持って渡航制限を課すものではありません。
  • 「感染症危険情報」の発出を受けて、海外渡航に関わる事業者が自主規制を行うことによって、海外渡航の制限が行われます。